図書館の利用者アンケートでは、多くの図書館で「所蔵資料に満足していますか」といった満足度を尋ねる設問が設けられています。
一方で、「どの分野の資料をもっと充実してほしいですか」という分野別の充実希望を尋ねるアンケートは、それほど多くありません。その理由として、主に次の二つが挙げられます。
図書館職員の経験知
図書館には長年蓄積された専門性があります。
地域にはどのような資料ニーズがあるのか、どのような展示や企画が利用されやすいのかなど、日々の業務を通じて把握しており、「アンケートで改めて聞かなくても分かる」という考え方です。
資料提供の公平性
もう一つは、蔵書構成の公平性を保つという考え方です。
図書館は特定分野の要望だけに左右されるのではなく、出版動向や利用状況などを総合的に判断して選書を行います。そのため、利用者の希望を直接尋ねる設問は設けないという考え方です。
それでも充実希望を聞く意味はある
もちろん、利用者の希望がそのまま購入につながるわけではありません。
しかし、「地域住民はどの分野を充実してほしいと思っているのか」という情報は、それだけで重要な利用者ニーズです。
とは言え、充実希望の結果だけを見ていても、実は本当に知りたいことは分かりません。
例えば、
- 希望が多い分野は、本当に満足度が低いのか。逆に、満足度が高いが故にもっと要望しているということはないのか。
- 希望が少ない分野は、もともと需要が少ないのか、それとも現在の蔵書に満足しているからなのか。
- 希望数の「多い、少ない」は、要望の「強弱」を表しているのか。
そこで統計分析を用います。
重回帰分析で分かること:「どの分野が満足度に影響しているのか」
例えば、次のような分野別の充実希望の結果があったとします。

このグラフだけでは、どの分野の満足度が高いのか、低いのかは分かりません。
そこで、「所蔵資料の満足度」を目的変数、「各分野の充実希望」を説明変数として重回帰分析を行います。

その結果、例えば、
- 中高生向け資料は、所蔵資料全体の満足度を高める要因になっている。
- 社会分野は、満足度を下げる要因になっている。
- 小説は希望者が多い一方で、必ずしも満足しているわけではない。
つまり、充実希望を聞くことで、分野ごとの満足度の特徴を把握できるのです。
主成分分析で分かること:「どの分野の要望が特に強いのか」
次に知りたいのは、「本当に要望が強い分野はどこか」です。
単純な希望数だけでは、利用者全体の回答傾向に埋もれてしまい、本当に強いニーズを見つけにくい場合があります。
そこで主成分分析を行います。

主成分分析では、原点から離れているほど、その分野が全体の回答傾向に強く影響していることを示します。
今回の例では、
- 中高生向け資料
- ビジネス
- 地域・行政資料
- 自然科学
などが、特に要望の強い分野として現れました。
さらに、第1主成分、第2主成分を棒グラフで表すと、どの分野の影響が大きいかをより分かりやすく把握できます。


資料分野の充実希望を聞く理由
改めて、最初の充実希望の投票結果だけを見ても、
- どの分野に不満があるのか
- どの分野の満足度が高いのか
- どの分野への要望が特に強いのか
までは分かりません。
しかし、「分野別の充実希望」という設問があれば、
- 重回帰分析によって分野ごとの満足度への影響
- 主成分分析によって要望の強さや特徴
を明らかにすることができます。
つまり、この設問は単に「購入してほしい資料」を尋ねるためのものではありません。
利用者のニーズを多面的に把握し、今後の蔵書構成やサービス改善を考えるための基礎データを得ることに大きな意味があります。