図書館の施策と利用者の行動

 図書館の施策は、利用者の行動に大きな影響を与えます。施策には、広くは法律、条令、提言などによるものから社会の趨勢や地域世論の後押しによるものなどがあります。

 ここでは、立川市図書館の施策が図書館利用者の行動にどのような影響を与えているか、その行動の変化を貸出利用者数および資料の貸出数から見てみたいと思います。

 資料として、立川市図書館『立川市図書館30年のあゆみ』および各年図書館事業報告を参照しています。
 

平成7年を基準とした図書館利用の推移

 立川市ではそれまでの8つの地区図書館に加えて平成7年に新たに中央図書館が開館しています。

 下図は、この平成7年を基準として貸出利用者数(以下単に利用者数)と貸出数の推移を、平成3年から令和4年までグラフにしたものです。地区図書館の値は、8館の合計になっています。
 

 
 主な施策の概要は以下のとおりです。
 
平成6年 貸出・返却業務のコンピュータ化
平成7年 中央図書館開館
平成13年 インターネット在宅予約開始
      システム更新のため休館あり
平成16年 中央図書館、火・金に加え水・木曜日も午後7時まで夜間開館拡大
平成17年 貸出冊数を5冊から10冊に拡大
平成20年 地区館でインターネット情報検索サービスを開始(システム入替・休館)
平成22年 地区2館で第1・3月曜日開館、午後7時まで夜間開館拡大
平成25年 予約数を無制限から20冊に制限
      地区3館で第1・3月曜日開館、午後7時まで夜間開館拡大
      システム更新のため休館あり
平成26年 中央図書館、午後8時まで夜間開館拡大
平成27年 地区3館で第1・3月曜日開館、午後7時まで夜間開館拡大
      スマートフォンの世帯保有率72.0%
平成31(令和元)年 スマートフォンの世帯保有率83.4%
令和4年 スマートフォンの世帯保有率90.1%
 

来館頻度の変化

 平成6年のコンピュータ化以前は変形ブラウン方式の貸出方式で、来館するとなるべくたくさん借りようとする行動になっています。

 貸出・返却がコンピュータ化されると図書館利用は、特に地区図書館において一気に高まり、平成24年までその勢いは続きます。

 この間で注目されるのは、次の2点です。
 
・平成13年のインターネットによる在宅予約開始
・平成17年の貸出冊数を5冊から10冊に拡大

 予約がインターネットで可能になったことは、間違いなく利便性の向上に役立ったでしょう。後々のスマホでの予約行動にも繋がります。

 特に平成17年に貸出冊数が2倍に増えたことは、一段と貸出数を増やす結果となっています。

 ここで気が付くのは、貸出数は増加しているが、貸出者数は必ずしもそれに比例して増加している訳ではないという点です。

 一度に借りることができる冊数が5冊の場合は、10冊借りるためには2度の来館が必要ですが、一度に10冊借りることができるとなると1回の来館で済むので、来館頻度すなわち利用者数は貸出数の伸び率に比べて低い様子がグラフから分かります。
 

予約数による変化

 次に大きな変化がみられるのは、平成25年です。

 この年には以下のような施策があります。
 
・新システムへの更新
・地区図書館の開館日・開館時間の拡大
・予約数無制限から20冊に制限
 
 貸出数が順調に伸びると、各図書館の予約棚は既に満杯になってきており、地区図書館の開館日の増加、開館時間の拡大を考えると、さらに図書館利用の増加が見込まれるため、予約数の制限に踏み切るという判断になっています。

 予約数が20冊に制限されたことによる貸出数への影響および新システム更新に伴う休館もあって、この年の貸出数は大幅に減少しています。

 しかし、その大幅な減少にも関わらず利用者数は増加するという現象になっています。

 この現象は当初の見込みと異なり、利用者数は多いが貸出数は減少傾向にあるという状況となって続いています。
 

一人当たりの貸出数の変化

 ここで一回の貸出での一人当たりの貸出数をみてみます。

 ①~⑫は上述の概要と同じです。

 この変化をみるとやはり、①貸出・返却のコンピュータ化、⑤貸出数の増加(5冊から10冊へ)、⑧予約数の制限(無制限から20冊へ)が大きく影響していることが分かります。
 

 
 
利用者層別の変化

 平成25年以降は、利用者数は増加しているにもかかわらず、貸出数の減少傾向が続くという状態になっています。

 図書館利用者の行動はどのように変化したのでしょうか。

 一人当たりの貸出数について、一般、児童、CD、全体の様子をみてみます。

 いずれも②⑤⑧のタイミングで大きく変化していることが分かりますが、それぞれに違いもあります。

 一般は、コンピュータ化および中央図書館開館後は一人当たり平均1冊程度の減少になっており、その後は一時若干盛り返す期間があるものの長期減少傾向が続いています。

 児童は、絵本などを大量に借りていくことから図書館施策の影響を最も受けやすい層と言えます。貸出冊数が5冊から10冊に増えると貸出数の実績は倍増に近い数字となり、予約数に制限がかかると一気に減少するなど、直接的な影響が大きい様子がみてとれます。

 CDは、平成18,19年をピークに一人当たりの貸出数は減少が続いています。平成24年の突出は、除籍処理の際のシステム上の取り扱いに起因するもののようです。

 全体をまとめると予約数の制限後は、利用者数が伸びる一方貸出数は急激な減少となっています。さらにここで注目しなければならないのは、減少が落ち着くのではなく、引き続き漸減が続いているという点です。
 

 

 

 

 
 

止まらない貸出数の減少

 貸出利用者数は増えているのに貸出数が減少するのは、一人当たりの貸出数が減少しているからでした。では、何故一人当たりの貸出数は減少しているのでしょうか。
 
 一つには、借りたい本がないからという理由が考えられます。

もちろん、図書館では日々選書を行い購入して資料の鮮度を保っています。しかし、人気の分野の偏りや鮮度が落ちている分野はないかを常に気を配っておく必要があります。

気を配ったとしても、利用者に必要な本を揃えることができているかどうかも重要です。

 テレビや新聞にはスポンサーが付いています。その広告収入で成り立っている事業体です。従って広告主に都合の悪いことを報じないのは事業体としては道理ですので、現状ではテレビや新聞の情報だけではなく、インターネットからの情報にも十分留意する必要があります。

私たちに必要な事柄でテレビ・新聞では報じられないことでも、インターネット上には存在している情報は多くあります。そういった情報を扱った資料も利用者にとっては必要なものです。
 
 もう一つは、スマホの普及による図書館利用行動の変化が考えられます。

スマホを使っていつでもどこでも予約が可能で、借りる冊数は少数で、思い立ったら気軽に来館しているということでしょう。

 昨今のカウンターでは、スマホの画面を見せながら予約を申し込んできたり、レファレンス対応になったりすることが増えてきています。

この状況は、セルフ貸出端末が普及している図書館では気が付きにくくなっていることかも知れません。

情報通信技術の発展に伴い、必要な資料の情報を予め調べ、在庫があることも確認してから来館するという行動に変化してきています。

これは必要な資料に的確に辿りつき、必要な資料だけを借りているということであり、貸出数が減少しているからといって、読書離れということではなく、より効率的な行動がとれるようになった結果だと考えられます。
 
 下図は、情報通信機器の世帯保有率の推移です。

 図書館利用者がICT端末を利用して情報収集する時代では、図書館員も選書に際しては、情報を広く公平に収集し、地域の多様なニーズをより的確に把握することがますます重要になってきていると言えます。
 

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