村は自治体によって、呼び方が「むら」か「そん」かのどちらかに分かれる。
鳥取県の日吉津村は「ひえづそん」と呼ぶ。日本海に面した稗(ひえ)の生えた海岸の沼地であったことから古くは稗津(ひえづ)と呼ばれていたが、字面をきらって日吉津に改めたという。時は元亀(げんき)2年(1571年)のことである。
鳥取県で唯一の村である日吉津村は、三方を米子市に囲まれ、最大でも東西1.8km、南北 2.9kmという面積4.20㎢の小村です。しかし、過疎化の波に反して人口が増え続けている村なのです。
日吉津村 ひとのえがおづくりができる村 (hiezu.jp)
西伯郡日吉津村
(さいはくぐんひえづそん)
人口 3,583人(推計人口 2023年5月1日)
財政力指数 0.57(2021年度)
鉄道 なし
日本海に面し、三方を米子市に囲まれた平坦な田園地帯である。チューリップや白ねぎの栽培が盛ん。製紙工場や山陰最大規模の大型商業施設が存在する。
日吉津村の財政力
日吉津村の財政力指数(2021年度)は、年々下がってきているものの、数値自体は類似団体平均の0.23や鳥取県平均、全国平均よりも高いことが分かります。
これは、王子製紙工場の固定資産税と大型商業施設イオンモールからの地代収入が大きいことに因ります。
ネウボラ
日吉津村では、フィンランド発祥の「ネウボラ」という妊娠から出産・育児の支援制度を取り入れており、保健師の訪問や小学校就学時の教材費支給などで手厚く支援することで、転入や出産が多く人口の増加に繋がっています。
今後さらに複合型子育て拠点施設の建設を予定しているようで、ますます子育てにやさしい村になっていくでしょう。
ネウボラ(neuvola)とは、「neuvo」は助言・アドバイス、「la」は場・場所を意味し、neuvolaで「助言・アドバイスの場」という意味になります。
日本版ネウボラとして、他では世田谷区、渋谷区、文京区、品川区、福山市(広島県)、和光市(埼玉県)などが取り組んでいるようです。
昼間人口
村内に製紙工場や大型商業施設があり就業や買い物のために村内へ流入する人口は多く、人口比では鳥取県第1位となっている。
村への転入者も増加し続け近隣市町のベッドタウンとなっており、就業および就学(中学以降の学校が村内に存在していない)のために村外へ流出する人口もまた多くなっている。
この流出人口も人口比では鳥取県で1位である。結果的にわずかではあるが、昼夜間人口比率は100を上回っています。
時折、全国犯罪率(事件・事故)ランキングで日吉津村が上がってくることがあるが、内訳をみると、交通事故・行方不明(高齢者の一時不明)が多い様子。特に休日は村外からの車での買い物客が多く、村道での事故もあるようです。住民人口比率では高めになるのでしょう。
王子製紙工場
イオンモール
大型クルーズ客船の寄港
月に3~5回程度、近隣の境港に大型クルーズ客船が寄港しています。その際イオンにも観光客が訪れているようです。2015年、中国人4000人が日吉津村を訪れ爆買いしていった様子が報じられています。
住民投票条例
日本には条例で外国人に住民投票権を与えている自治体が43団体あります。日吉津村もこの中に含まれます。
村のアンケート結果や総合計画書などのPDFは、ファイル名がアルファベット表記で中国語になっていていささか戸惑ったということがあります。
クルーズ船で海外から観光客がやって来ることや住民投票条例と何か関係があるのだろうか。
組合立の中学校
村内には中学校が無く、米子市と共同で米子市日吉津村中学校組合立箕蚊屋(みのかや)中学校(所在地は米子市)という組合立の中学校を運営してます。
日吉津村図書館
学生の学習環境、生涯学習環境として村立図書館があります。月2回、村内8ヶ所の公民館を巡回する「ひえづ出前図書館」もあります。
村内の学習環境を考えれば、住民にとって図書館の存在は非常に重要な役割を果たしていると言えます。
ヴィレステひえづ、図書館
村づくりアンケート
日吉津村では、令和3年度から10年間の村づくりの方針となる第7次総合計画の策定のために、令和2年1~2月に「村づくりアンケート」を実施しています。
この結果報告書である『村づくりアンケート報告書(一般)』の中から、クロス集計および自由意見に対して対応分析(コレスポンデンス分析)や共起ネットワークによる分析を行ってみます。(※)
農地風景
「住み続けたい日吉津村」を実現するために必要な取組
対応分析(コレスポンデンス分析)では、原点から遠いほど特徴が強いことを表しています。また原点からのベクトルの方向性が志向の特徴性を示しています。
住み続けるために必要な取組みとして、若年齢層では「上下水道等性格環境の改善」「観光・交流の振興」「住宅整備」「村の魅力発信・地域イベントの推進」「地域での所外学習機会の充実」など生活環境の充実や地域の活性化に注目しています。
高年齢層では「農業・水産業の振興」「水路の整備、改修」や特に50歳代では「地場産業・商工業の振興」「雇用の創出・確保」「道路整備や交通利便県境の充実」といった就業環境に関心が強いようです。
高年齢層においては、「人権尊重の取組と男女共同参画の推進」も目立った特徴と言えます。
今後、日吉津村はどのような村づくりに取り組むべきか
若年齢層では、「観光や交流事業を進める村」「生涯学習や文化芸術・スポーツか活動が活発な村」のように活気ある村づくりに取り組むべきとしています。
また、「児童・生徒の教育環境が充実した村」「子育て支援が充実した村」など安心して子育てができる環境を求めています。
高年齢層では、「産業の振興や製造業の発展を後押しする村」「保険医療・福祉の充実した村」「農業や農村環境を大切に守り育てる村」「美しい自然環境や景観が誇れる村」「積極的な村民参加による村民主役の村」など産業振興・福祉・村民参加に関心が強く出ているようです。
自由意見による共起ネットワーク
自由意見では、以下のような事柄に関心が集まっているようです。
・子育て
・教育
・交通安全
・防犯・防災
・施設の充実
・高齢福祉
・行事参加・活動
・生活不安
年齢との相関
共起ネットワークを年齢との相関で見てみます。
高年齢との相関が強いほど赤色になり、若年齢との相関が強いほど青色になります。
この図からは、高年齢層では村づくりへの活動参加、生活上の不安・相談などに関心が高い様子が見て取れます。
若年齢層では、施設の充実、子育て、高齢者に住みやすい村づくりなどに関心が高いようです。
性別との相関
共起ネットワークを性別との相関で見てみます。
女性との相関が強いほど赤色になり、男性との相関が強いほど青色になっています。
女性では、活動・行事の多さや相談、不安、公園、街灯などに関心が強い様子が分かります。
特に高齢女性では、自治体の行事が多く体力的に活動参加が困難、支出が多く生活に不安がある、相談の仕方が分からないといった意見があります。
男性では、商業、農業、振興、誘致、防犯・防災、教育などに関心があるようです。街灯が少なく子どもの送り迎えを男性が行っていることが多いのか、防犯・安全に関しては男性の意見が目立っています。
自由意見による対応分析(コレスポンデンス分析)
女性では70代・80代に、生活不安を感じている人や相談の仕方が分からない人が目につきます。
50代では男女を問わず子どもたちの教育や進学、今後将来に対する関心が強い様子が見られます。
一方、20~30代の女性では地域のルールを守り、地域に根差した生活を送りたいと願っている様子がうかがえます。
これからの日吉津村
日吉津村では、妊娠から出産・育児の支援制度を導入するなど子育て支援に力を入れており、住みやすい村として移住者の増加を実現してきています。
今後も複合型子育て拠点施設を建設してさらに充実化を図っていきます。
アンケートの結果では、住民も子育てをはじめとして福祉・健康、生活環境、学校教育等の充実が重要だと考えており、村は今後も引き続き住みたい村を目指していくとしています。
人口増と福祉
一方では、冒頭で示したように財政力指数が、平成25年まで遡ると0.78であったものが、令和3年では0.57まで低下してきています。
その主な原因として、企業からの固定資産税(減価資産)が減価償却により減額されてきていることと、人口増による税収の増加があるものの同時に社会福祉経費も増加していることが挙げられています。
今後の取り組み
デジタル化が進む時代で、紙の需要がどこまで維持できるのか。大型商業施設も山陰最大規模の地位をいつまでも維持できるのか。
将来的には紙の減産に伴う工場の縮小・撤退や 周辺人口減少に伴う商業施設の再編成なども想定しておく必要があるでしょう。
そのためには村の自立のために産業の振興(農業の振興、商工業の振興、雇用の拡大、観光・物産の振興)にも力を入れて備えておくという考えも必要だと思われます。
そして人口が増えるとともに今後は、高齢者向け施策の充実化も課題となってくるでしょう。
日吉津村のこれからの10年は、発展拡大と来るべき準備の10年となりそうです。
※ 分析にフリーソフト「HAD」および「KH Coder」を使用しています。