市政アンケートのクロス集計

 自治体が公表するアンケートの結果報告は、値を合算した集計表とそのグラフであることがほとんどです。この集計値は、経年変化や他自治体との比較において現在の自身の状況を把握する上で非常に有用な情報となります。

 一方で、1問目でAを選択する人は、2問目ではBを選択する傾向が強い、といった相関性や原因に迫ることはできません。

 相関性や原因に迫るためには、アンケートに答えてくれた一人一人の生データが必要なのですが、このデータの公表はさまざまな理由で難しいようです。

 集計の仕方にクロス集計があります。

 クロス集計表があれば、生データがなくても有意性(正しいと言えるかどうか)の検定が可能になります。

 しかし、ここでは例えば「クロス集計では高齢者に不満の意見が多い結果となっているが、その結果は高齢者の総意として正しいと言えるかどうかを検定」したい訳ではありません。

 もちろん有意性が重大な関心事である場合もあるでしょうが、さまざまな社会的要因が絡み合っている状況下での政策判断のための基礎情報としては、年代によってどのような傾向があるのか、地域によってはどうなのか、といった傾向をクロス集計から把握できれば十分ではないでしょうか。

 この傾向を把握したい時に、クロス集計があると対応分析(コレスポンデンス分析)が可能になります。
 

立川市のクロス集計表
 

  市民アンケートとして市政に関するアンケートを実施する自治体は多く、東京都立川市も毎年実施しています。

 この市では集計表とそのグラフを主とした報告書とは別に、クロス集計した報告書も別途作成して公表しています。

 今回取り上げるのは次の2つの報告書です。

①『令和4年度 市政に関するアンケート集計結果 令和4年9月 立川市(令和3年度実績)』
②『令和4年度 市政に関するアンケート集計結果(クロス集計版) 令和5年2月 立川市(令和3年度実績)』


 立川市の市政に関するアンケートでは、最初に「立川市の全体的な印象について」住みよいところかどうかを4段階で評価を求めています。

    『令和4年度 市政に関するアンケート集計結果 令和4年9月 立川市(令和3年度実績)』 P14より

 令和3年度は、無回答が目立って多くなっており、「思う」「どちらかといえば思う」の割合は減少しています。無回答を除外して計算したとしても、下記のように令和2年度からは減少している様子が分かります。
 




相関分析とクロス集計

 
 原因を探る上で、相関分析は最初に試みる手段として有力です。ダミー変数への変換など必要な事前処理を行い、全要因を対象に実施することが肝要です。どこかあたりを付けて分析を行うのではなく、まずは全要因を対象に相関を調べてみることが大事です。

 相関があっても因果関係があるとは限りませんが、隠れた共通の原因を見出すことに繋がることもありますので、相関がある箇所は重要なチェックポイントになります。

 相関分析には集計値ではなく集計前の元のデータが必要なのですが、調整済であったとしても元のデータが外部に公表されることは現状ではほぼ無く、従って残念ながら外部の人が相関分析を行う機会は限られるのです。

 そこでクロス集計があると、対応分析(コレスポンデンス分析)が可能ですので、この分析手法で傾向の様子を視覚的に把握してみることにしましょう。

対応分析(コレスポンデンス分析)

 
 対応分析(コレスポンデンス分析)では、次のように解釈します。

・中心から遠いほど、特徴が強い。
・中心に近いほど特徴が無い。逆に、多くの人が抱える共通の認識・課題であるとも言えます。
・中心からのベクトルの向きで、傾向が同じであることを示している。
・複数の事象が同じ強い要因を持つ場合、それらの事象の中間にベクトルを採る。
  
 
 

(1)「あなたは、立川市を住みよいところだと思いますか。」と年齢、職業、住まいとのそれぞれのクロス集計表を分析(※1)


 分析の結果では、10代、20代では住みよいところと考えているようです。70歳代以上ではやや否定的な様子がうかがえます。職業では、会社員、学生、パート・アルバイトの方が住みよいと評価していますが、自営業・自由業では「どちらかといえば思わない」という評価となるようです。

 住まいとの関係で見ると、緑町、上砂町、西砂町が「どちらかといえば思わない」「思わない」というベクトル方向の範囲にあり、これらの地域で評価が低い傾向がでています。

 
 
 

 (2) 「あなたは、立川市が安心して子どもを産み育てることができる地域であると思いますか。」と年齢、職業、住まいとのそれぞれのクロス集計表を分析


 10代が「思う」と評価しているところが際立っています。

「思わない」「どちらかといえば思わない」としたのは自営業や専業主婦・主夫のようです。学生、農業では「思う」と評価しています。

 一番町、上砂町では「思わない」「どちらかといえば思わない」という評価が強く、泉町では「思う」という評価が注目されます。

  

 

 (3)「あなたは、立川市(お住まいの地区)が快適で住みやすい地域であると思いますか。」と年齢、職業、住まいとのそれぞれのクロス集計表を分析

 
 20代で「思う」と評価しているところが目立ちますが、70~74歳代や無回答層では「思わない」という傾向が出ています。

 学生や自営業では「思う」という評価で、自由業では「思わない」という評価になるようです。

 泉町、富士見町、柏町、柴崎町では「思う」傾向が強く、上砂町、一番町、西砂町では「思わない」「どちらかといえば思わない」傾向が強く出ています。

 
 
 

 (4)「あなたは、立川駅周辺の市街地についてどのように思いますか。」と年齢、職業、住まいとのそれぞれのクロス集計表を分析

 
 10歳代、20歳代を中心に若年齢層に肯定的に受け入れられている様子がうかがえます。無回答層に否定的な評価があるようです。

 学生、公務員・団体職員は魅力を感じており、自由業や無回答層では否定的な評価が強いようです。

 地域別にみると、泉町、緑町、富士見町では魅力的であると評価がある一方、一番町、柴崎町、無回答層でやや否定的な評価になっています。

 
 
 

 (5)「あなたのお住まいの地域では、鉄道、多摩都市モノレール、バス、タクシーなど公共交通機関の利便性が高いと思いますか。」と年齢、職業、住まいとのそれぞれのクロス集計表を分析

 
 10歳代では「思う」という評価が目立ち、60~64歳代では「どちらかといえば思わない」という評価が目立ちます。また無回答層で特に「思わない」となっています。

 学生、農業では「思う」という評価が強いようです。

 西砂町、一番町、上砂町、泉町では「思わない」「どちらかといえば思わない」という評価が目立ち、緑町では特に「思う」という評価に強い特徴が出ています。

 
 
 

対応分析(コレスポンデンス分析)結果のまとめ

 
 分析の結果からは、総じて若年齢層の評価が高く住みやすい街として受け入れられているようです。JR立川駅北側の再開発が終了し、官公庁やおしゃれな飲食店の通りが出現したことが大きく影響していると思われます。

 一方、高年齢層においては、特に公共交通機関の利用に不便な地域においては、評価が低い様子が見て取れます。

 立川市内には二つの鉄道路線が東西を貫いています。

 いずれも都心に直通しているものの二つの路線間には距離があり、行政区域の地形的な状況から同じ市内でも地域によっては市の中心部へのアクセス手段が不十分であるとして、そのことが評価の特徴的な地域差となって表れているようです。

                        JR立川駅北側サンサンロード


 
 
クロス集計を対象にして相関分析をやってみた

 
 相関分析には元のデータが必要なのですが、クロス集計のデータを用いて相関分析を行うとどうなるのか、やってみました。

 対象となるデータは、上述の5つの質問に対するそれぞれ3つの属性(年齢・職業・住まい)との計15個のクロス集計表の値です。

 相関分析の結果は以下のとおりです(※2)。

 
 
 空白のセルには、後々の視認性向上のために対角線上で鏡合わせになっている値で埋めておきます。

 

 一般に相関係数が0.7以上あれば相関が強いと言われています。0.7以上の値は文字色を白にして見かけ上、表から消したようにしています。残った0.7未満の箇所は相関が弱いところとしてセルを赤くしています。また、値がマイナスの場合は逆相関であり青色のセルにしています。

 
 
 15個のクロス集計データによる相関分析結果の全体の様子は、以下のとおりです。
表頭:左から(住みよい立川)(子育て安心)(住みやすい地域)(駅周辺市街地)(公共交通機関)の順
表側:上から(住みよい立川)(子育て安心)(住みやすい地域)(駅周辺市街地)(公共交通機関)の順

 
 この結果からは、以下の4つの場合で全体的に相関が弱いことが見て取れます(赤色・青色が多い領域)。〇と□の領域は同じ組み合わせの対(対角線上の鏡合わせ)になっています。

・(住みよい立川)x(子育て安心)
・(住みよい立川)x(駅周辺市街地)
・(公共交通機関)x(子育て安心)
・(公共交通機関)x(駅周辺市街地)

 若年齢層では先に見たように「安心して子育てができる」「駅周辺の市街地が魅力的」と評価が際立っており、「住みよい立川」の全体評価分布とは差異が大きいことが相関の低さにつながったと考えられます。

 「公共交通機関」に関してはその評価に地域差が大きいことが、子育ての安心感や駅周辺の市街地が魅力的であるかどうかの評価に影響を与えていると考えられます。

 結果として、市は若年齢層への取り組みは成功しているが、高齢者向けの施策や公共交通機関の充実については課題が残っていると言えそうです。

 ちなみに、相関係数がマイナスになっている箇所がありますが、以下の「公共交通機関/住まい」のうち「一番町」「西砂町」では全般的にマイナスの相関係数になっており、公共交通機関の利便性に対して特に評価が低い様子が明らかに表れています。

 自由意見の中に、市役所・駅周辺市街地へ直接アクセスできるルートの要望がありました。

 

結論:クロス集計表について

 
 オリジナルの生データを公表することが難しい場合でも、クロス集計表があれば分析を行って状況を把握することができることが分かりました。

 ただ、全てのクロス集計を行うには多大な労力を要することは立川市の報告書から察することができます(集計結果:令和4年9月、クロス集計版:令和5年2月)。

 それでも外部からの意見を広く求めたい場合、クロス集計版を公表することは有効な方法だと言えます。
 
 

自由意見

 
 市政に関するアンケート結果報告には、自由意見もありました。

 ここでは、自由意見に対するテキストマイニングによる共起ネットワークと対応分析(コレスポンデンス分析)の結果を、参考までに示しておきたいと思います(※3)。

 共起ネットワークを見ると、市民の主な関心事として次の3つが挙げられます。

(1)道路の整備およびバスなどの交通機関の充実
(2)公園・医療など子育て環境の整備
(3)商業施設など地域の生活環境の充実

 対応分析(コレスポンデンス分析)でも同様の結果が見られますが、加えて特に防犯・防災に強い関心がある様子も確認することができます。
 

                        共起ネットワーク

  

                     対応分析(コレスポンデンス分析)

 




(※1)フリーソフト「HAD」を使用
(※2)マイクロソフト「Excel・データ分析」を使用
(※3)フリーソフト「KH Coder」を使用

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