追考・登米市新図書館計画

 9町が合併してできた登米市は、行政区域が広いことが特徴として挙げれられます。
 
 市内面積を正方形にしたとすると、1辺が約23キロメートルになります。旧9町にはそれぞれ総合支所が設けられているものの、図書館(室)となると3か所しかありません。

 仮に総合支所すべてに図書館施設があったとしても、一つの図書館施設がカバーする平均的な図書館圏内距離は、図書館を中心にほぼ4キロメートル四方にもなります。

 身近な図書館までは2キロメートル圏内が理想と言われる中で、登米市民の図書館利用には図書館へのアクセスのしやすさという根本的な課題が存在していると言えるでしょう。
 

 

 

1.自由意見と年代

 
 前回は、アンケート結果報告のうち「図書館を利用しない理由」と「行きたいと思う図書館」の2点について見てきましたが、今回は815件の自由意見を見てみたいと思います。

 年代別の意見数は次の通りです。なお、年代・地域不明の2件を除外しています。以下では、20歳未満を10とし70歳以上を70としています。
 

 

 ここで自由意見に対してテキストマイニングを行い、共起ネットワークを年代との相関で調べると次のような結果になりました。(※)

 

 

 色は、大きな数値と相関が強いほどすなわち高齢者と相関が強いほど濃い赤色になり、小さな数値と相関が強いほどすなわち若年代と相関が強いほど濃い青色になっています。

 これによると、高齢者では「施設」「図書」「充実」「予算」「職員」「インターネット」「時間」などに言及しており、若年代では「勉強」「スペース」「カフェ」「学習」「サービス」「絵本」「アクセス」などが目立ちます。
 

スペースと施設

 
 「スペース」と「施設」に注目してみます。KWIC(Key Word In Context)で抽出された意見を列記すると下記のようです。

 

 

「スペース」

・静かに集中して勉強できる
・周りを気にせずに個別に仕切られていて勉強ができる
・休憩できる空間
・カフェ
・ベビーカーの置き場所
・市民活動ができるエリア・部屋
・広い駐車場
・共同で作業できるワーキングエリア
・学習できる空間
・靴を脱いで親子でリラックスして本が読めるエリア
・プレイマットエリア
・多少子どもが声を出しても気兼ねしなくても良いエリア
・授乳室
・乳幼児向けエリア
・会議室
・飲食できるエリア
・キッズエリア
・飲食販売コーナー
・障がい者に配慮した図書館
・広くゆったりとした閲覧席
・読書スペース
・セミナーなど貸しスペース
・DVD視聴コーナー
・滞在型の図書館
・郷土資料の確保
・雑談OKのスペース
・パソコン・コーナー
・オンライン授業・講習ができる部屋
・ミーティング・ルーム
・支所の空きスペースの活用
 

「施設」

・節電に配慮し、圧迫感がない施設
・お金が町におちる事が大事、そのための施設であるべき
・外からの利用者が増える施設
・アクセスが良い立地が重要
・将来に活きる施設
・市に不足している必要な公共施設である
・元南方イオンの跡地利用
・公園、遊具、芝生フリー施設の併設
・子育て支援を考えた施設
・借金してまで立てるべきでない。費用対効果をまず検討すべき
・気軽に集える施設
・複合施設にするべき
・多くの世代、さまざまな利用ニーズにこたえる
・団体利用、市民の活力が発揮できる場所
・スリッパの履き替えは不衛生
・子ども連れでもはいりやすい図書館
・市外からの集客を考えた施設
・学生が利用しやすい施設
・本屋を併設
・併設による効率化を考えるべき
・仕事後に利用できるように開館時間を7時までに
・バスの交通の便が良いこと
・体験型施設
・市のシンボル的施設に
・数十年先を見据えた
・明るい解放感のある施設
・歴史を大事にしたコーナー設置など
・住んでいる近くに図書館は必要
・バスターミナルとの複合など、市内全域から利用しやすい場所に
・予算的・施設の有効活用など既存施設との併設を
・市外からの利用を想定
・貧乏くさくない施設
・子育て世代にやさしい
・公共施設を中心部に集約し効率化を図る
・複合施設に
・若者向け優先
・児童館併設、親子で利用できる施設
・明るく開放的な施設
・公園と併設
・市民参加型の交流施設
・開館時間を延ばして利用しやすくする
・類似施設の統廃合による効率化
・多少市街地から離れていても集客可能な施設に
・病院と図書館を併設
・図書館とコンビニ
・研修ができる施設
・情報発信できる先進的な施設
・予約システムを総合支所にも導入する
・貸出返却を総合支所で利用できるようにする
・近隣自治体と相互貸借できるようにする
・電子書籍の導入
・公民館、学校などの再利用
・図書館のみを充実化させるべき
・若者が使える施設
・税金の無駄にならないようにする
・施設を集中させない、全域で身近に利用できる工夫を
・文化教育施設
・気軽に集える
・高齢者施設に特化しないように
・起業促進を考慮した施設・コーナー設置
・近くに商業施設がある方が良い
・ショッピングセンターが近くにあると便利
・移動図書館の運用
・公共施設の集約が必要
・視聴覚センター
・乳幼児連れでも気兼ねなく過ごせる
・創意工夫の検討が足りない。既存施設の活用を

2.自由意見と地域

 
 自由意見を地域別にまとめると以下のようになります。

 ここで地域区分とは、市の中心部や図書館の場所から遠く離れるほど数値を大きくしたものです(注:筆者の想定値です)。参考として、この数値と共起ネットワークとの相関をみてみます。
 

 

 
 大きな数値すなわち遠い地域との相関が強いほど濃い赤色になり、小さな数値すなわち近い地域との相関が強いほど濃い青色になっています。

 意見は、市の中心部や図書館が存在する地域からの意見が多い様子が見て取れ、普段の館内利用に関する意見が目立ちます。

 遠方ほど「近く」「行ける」「雑誌」「購入」など、身近に図書館が欲しい要望や書店がないことによる雑誌の購入など、情報の入手事情に関する意見が目につきます。
 

システムとインターネット

 
 ここで「システム」「インターネット」についての意見をまとめて列記すると以下のとおりです。

・検索ができる・予約ができる
・休館日、時間外でも利用できる
・選書・購入の仕組み
・各総合支所で貸出返却ができる
・限られた用途や開館時間だけではない日々の暮らしの一部となる利用
・コンビニで返却できる
・貸出延長の手続きができる
・インターネットを使えない人たちのためにも地域の施設を充実
・市民利用施設予約・図書館で本が購入できる
・インターネットが使えるコーナー
・電子書籍の利用
 

3.年代別、地域別の関心度

 
 自由意見回答者の関心の中心となる題目のことを「主題」と呼ぶことにして、例えば「子ども」という主題をここでは「子ども」または「子育て」または「幼児」を含む概念として定めます。

 この主題(これら3つの語のどれか)が、自由意見の中でどの程度出現するのか、全ての意見の中での割合を示すことで関心の高さを測ってみます。結果は下記のとおりでした。
 

文書数:ここでは自由意見数

 
 これをさらに年代や地域とのクロス集計を行って割合を求め、バブルプロットを作成します。
 
 バブルプロットの色は横軸のみの比較において、他の項目より出現率が高い場合に濃い赤色になり、より低い出現率の場合は濃い青色になっています。
 

 
主題と年代とのクロス集計による比率

 30代を中心に20代~40代では子育てにおける配慮が求められています。

 カフェは40代以下の年代で要望が強い。

 30代では家族連れによるものなのか来館する際の駐車場に関心が高く、高齢者や20代では図書館までの距離や開館時間について関心が高い様子が見て取れます。

 40代については特に所蔵書籍に関する関心が高い。

 職員・司書に対する要望は高齢者に多く、スペースについては若年層を中心に意見が出ている様子が分かります。

 高齢者からはインターネットに関する言及もあります。
  
 

主題と地域とのクロス集計による比率

 このバブルプロットからは、豊里町では全般的に図書館に対する関心・要望が強い様子がうかがえます。

 東和町や米山町ではカフェの要望が比較的強く、来館の際はゆっくり過ごしたいという要望が表れています。

 南方町からは施設についての意見が多く出ています。システムに対しては特に豊里町から意見が出ています。
 

4.分析結果のまとめ

 
 以上の分析から、新しい図書館では次のような課題が挙げられます。

(1)区分けされた空間

 図書館の利用者や利用の仕方は多様化してきており、目的に応じたゾーニングは重要な課題となっています。

 個別にセパレートされたスペースで勉強や読書など静かに集中できる環境が欲しい一方で、雑談も可能なエリアの要望があります。

 子育て世代では、乳幼児や児童など子ども連れでも気兼ねなく来館できる図書館が求められています。

 また、地域の活動の場としての要望もあります。ボランティアによるおはなし会、イベント・エリア、ミーティング・ルーム、オンライン会議室・講習会場などです。

(2)滞在志向

 気持ちよくゆっくり過ごしたいという長時間滞在志向があり、カフェの併設などの要望が出ています。
 
 家族向けでは、ベビーカーの置き場・授乳室や靴を脱いでくつろいで本選びができるエリア、近くに公園や遊具の要望もあります。

(3)日常生活への利便性

 図書館に来たついでに用を済ませたいという生活に密着した要望も出ています。

 商店街、ショッピングセンターが近い、バスターミナルとの複合など市内全域から利用しやすい場所にあるなど、立地も重要な課題です。

 病院、本屋などを併設して欲しいという意見もありました。また、広い駐車場は必須となります。

(4)情報拠点

 地域の情報拠点として、各総合支所の活用やインターネットを使った図書館利用のシステム作り、開館時間の拡充などが求められています。
 
 なお、現状のインターネットを使った検索などの図書館利用については、広報・周知不足も感じられます。

(5)地域活性化

 図書館は情報拠点としてだけではなく、賑わいを創出し地域を活性化する施設としても求められるようになってきました。

 市外からの集客や地域産業の振興につながる期待もされています。

(6)予算・効果・職員

 一方では、予算・施設の有効活用を求める意見もあります。

 既存施設の活用、跡地利用など。また、専門的な職員の配置も課題として挙がっています。

5.考察

 
 アンケートからは新しい図書館に対して大きくは二つの課題が見えます。

 一つは地域の情報拠点としての整備・充実化であり、もう一つは賑わいを創出する地域活性化のための拠点づくりです。


中央館と地区館

 広域自治体では、各地域に規模はさておいても図書館機能を持った施設の設置は必須と思われます。

 そこでは中心となる中央図書館があるとすれば、各地域には地区図書館が存在します。

 地区館は中央館の分館ではなく、中央館と連携しながら地域のニーズを的確に把握して選書・所蔵に責任を持つ館の意です。その姿勢がそれぞれの地域に活力を生みます。

 登米市においては各総合支所などに設置されることが想定され、相互を結ぶネットワークの整備が必要でしょう。

 地区館では予算に応じて選書を行い、定期的に一堂に会し、選書会議を行って全館で持つ図書か、市内で1館が持っていれば良い図書か、などを協議し決定する。

 インターネット環境があればリモート会議でも実施可能です。

 各拠点が広範囲に存在すると本の配送・回収については、巡回便の経路や頻度について予算的な検討が必要になるでしょう。

 将来的には高精度GPSによる自動運転配送やドローンによる配送も考えられます。

 新しい図書館では、いつでもドローン・ポートが設置できるように屋上には平坦な場所を用意しておくといずれ役立つと思います。

 中央館については、大阪府泉大津市の図書館づくりの際の論点整理や新図書館の館内図に見るゾーニングなどが参考になりそうです。

地域活性化

 登米市は農業が盛んな土地柄。強みを活かし弱みを補う、という点ではやはり食に関する取り組みが地域の活性化に繋がるのではないかと思えます。

 グローバル化が進むに伴い、農産物の輸入は益々増大しています。しかし、数週間かけて船で送られて来る農産物には、カビで腐らないように菌を殺す薬剤がかけられています。

 これは人体にとっても有害です。

 食の安全、自給率の向上、地産地消。日本の国の確かな食の未来の姿を発信する施設が思い浮かびます。

 登米市の弱みとすれば、インターネットをはじめとしたICT(Information and Communication Technology)化と思われます。

 今はインターネットの環境があればどこでも仕事ができる時代です。

 昨年12月23日に、地方デジタル化で東京圏から年1万人の移住目指す「デジタル田園都市国家構想」が閣議決定されました。

 その中で地方創生テレワークは重要施策分野になっています。

 テレワーク環境を整え、過ごしやすくて豊富な資料を揃えた図書館を用意し、良質で安全な食材をふんだんに使った郷土料理をおしゃれに提供する一大総合施設・地区が想起されます。
 



※テキストマイニングに、フリーソフトKH Coder(樋口)を使用しています。

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