9町を統合した宮城県登米市。平成27年の図書館構想から7年が経とうとし、構想の見直しに当たり、市立図書館(室)の利用実態や新図書館への期待、要望等を把握するため、市民アンケート調査を実施しています。
調査対象:市内在住の中学生以上
調査期間:令和4年6月17日~令和4年7月15日
調査方法:Web調査と紙調査の併用
ここでは、『令和4年9月 登米市 新図書館整備に関するアンケート調査 結果報告書』をもとに、図書館を利用しない理由と行きたいと思う図書館の2点を中心に調査結果を見ていきたい思います。
分析では、クロス集計と自由意見に対して対応分析(コレスポンデンス分析)を行っています。(※)
登米市図書館の状況
登米市図書館の現状はおおよそ次のとおりです。
平成27年11月『登米市図書館構想』P1から転載しています。
注)令和4年9月1日現在の人口は、73,703人(推計人口)となっている。
開館:午前9時~午後5時
休館:毎週月曜日、祝日(月曜日の場合は翌日)、年末年始、館内整理日、特別整理期間
各館の蔵書数は以下のとおりです。
図書館を利用しない理由
問2-1 図書館を「利用したことがない」と回答した方に伺います。 図書館を利用しない主な理由は何ですか。3つまで選んで番号を ○ で囲んでください。
⇒回答者628人、回答総数1,270
利用したことがない理由について、地域別とのクロス集計表で対応分析(コレスポンデンス分析)を行うと以下のようです。
豊里町、東和町では、図書館までが地理的に遠いことが主な理由になっています。
米山町、津山町も図書館までが遠いが、ここでは適切な公共交通機関が無いことが主な理由になっています。
結果として、これらの地域では本は買って読むという傾向が強く、図書館が身近にないために存在すら知らないということにもつながっているようです。
図書館が比較的近くにある迫町、登米町、中田町では、閉館が午後5時であるため時間帯が合わないことが理由として挙がっています。
また、館内スペースが狭い、蔵書が少なく読みたい本が無いなどが理由になっています。
全般的に、手続きが面倒ということが理由になっていて、図書館の雰囲気にも利用がしにくい様子がうかがえます。
次に、年齢別とのクロス集計表で対応分析(コレスポンデンス分析)を行うと以下のようです。
読みたい本がない、交通手段が無い、時間帯が合わないといった理由が特徴的に示されています。
特に20歳代では時間帯が合わない、70歳以上では地理的に遠い、交通手段がないので買って読んでいる、30、50歳代では雰囲気が苦手とあり、20歳未満では、図書館の存在を知らないことが理由となっています。
また、本は読まないから、手続きが面倒そうだから、という理由が全体的にあるようです。
市民にとって本が身近なものではない様子が垣間見えます。
その他の理由として記入されている自由意見に対して対応分析(コレスポンデンス分析)を行うと以下のように要約されます。
(1)親しみやすさ
・気軽に立ち寄れない
・施設自体が殺風景で魅力を感じない
・館内は狭く暗いイメージで入りづらい雰囲気がある
(2)利用のしやすさ
・駐車場が狭く、遠くから車できても利用できない
・子ども連れだと利用しづらい
(3)本の品揃え
・所蔵が少なく必要とする本が無い
共起ネットワークでは以下のようになります。
行きたいと思う図書館
問5 あなたにとって「行きたいと思う図書館」とはどのような図書館ですか。3つまで 選んで番号を○で囲んでください。
⇒回答者1,825人、回答総数5,031
図書館利用の有無にかかわらず、市民に対して行きたいと思う図書館について聞いています。
年齢別とのクロス集計表で対応分析(コレスポンデンス分析)を行うと以下のようです。
「幅広い図書」は共通的な要望としてあるようです。
若い世代ほど、飲食可能な滞在型の図書館を求めています。
20歳未満では、勉強するのに静かな環境、来館するのにアクセスが便利であることが挙げられます。
20~40歳代では、飲食可能に加えて気軽に利用ができる、子ども連れでも気兼ねなく利用できる図書館を求めています。
50歳代では、発表の場など人が集う場を求めています。
60~70歳以上の高年齢層になると、人との交流の場が求められており、障がい者や高齢者など多様な利用者に対する配慮が大事だとしています。
その他の要望として記入されている自由意見に対して対応分析(コレスポンデンス分析)を行うと以下のように要約されます。
(1)財政
・貧乏くさくない立派な施設
・利用状況を考えると新しく図書館を作る必要は無い
(2)利便性
・カフェやコンビニの併設
(3)居住性
・堅苦しくない、居心地の良い場所
・広いスペース、静かな空間
(4)職員の対応・図書館サービス
・気軽に立ち寄れる、利用者も職員も楽しくしている
・子どもの進路、高齢者の健康、身近なトラブルに関する法律などのレファレンス
共起ネットワークでは以下のようになります。
図書館のカバーエリア
宮城県登米市は9町が合併してできた市であり、下図のとおり県下でも有数の広域自治体となっています。10町村が合併してできた栗原市も同様です。
下記でいくつかの自治体を比較してみました。
ここで、$$圏内距離=\frac{\sqrt{カバーエリア}}{2}$$ とします。
多賀城市や神奈川県大和市が都市型自治体とすると、登米市や栗原市は農山村型自治体と言えます。
コンパクトな都市型自治体に対して農山村型自治体では、図書館のカバーエリアが広大になるため、まずこの点の対応策が焦点になってきます。
登米市には3つの図書館(室)がありますが、総合支所にすべて図書室ができるとすると次のようになります。
それでも圏内距離は4km近くあり、子どもが図書館に通うにはまだ距離があります。
登米市の財政状況
各自治体の財政状況は下記のとおりです。
登米市の財政比較分析表によれば、定員の適正化・給与の適正化が求められています。
多賀城市や大和市は、業務の外部委託や指定管理者の導入が進んで“職員”数は減少しているとしています。
登米市の場合は業務の外注化が進んでいないことが指摘されている訳です。
外注費用は物件費になりますから、今度は物件費の管理が必要になってきます。
適正な定員管理による人件費の抑制と物件費の見直しは、多くの自治体が指摘されているものですが、9町が合併した登米市では各町時代の職員体制を急激に変更することは困難と思われ、財政改善には紆余曲折がありそうです。
実際、登米市でも会計年度任用職員制度の導入を行っているもののその分の人件費も相まって、経常収支比率は徐々に上がってきています。
多賀城市の場合、経常収支比率は以前では100を超えていましたが、令和2年度で100を下回ってきています。業務のアウトソーシングや退職者の一部不補充等に努めている現状とのこと。
大和市の場合は、猶予特例債や臨時財政対策債を含めると経常収支比率は100を超えてきます。
こうしてみると、多賀城市や大和市では、お金をかけるときはかけてきた様子が想像されます。
コンパクトな都市型自治体では、圏内距離を短くすることができます。また、交通のアクセスが良く近隣の都市圏からの集客も見込めるとなると、大型の図書館建設も理になかったものになります。
一方、登米市や栗原市のような圏内距離が長くなる自治体では、多賀城市や大和市のような図書館建設は、全域の市民に等しくサービスを提供するという点では難しくなります。
登米市は音楽活動(伝統芸能を含む)が盛んなようですが、音楽に限らず全国から利用者が訪れてみたいと思うようなコンセプトを持った施設が実現できると理想的です。
新図書館
登米市の場合は、図書館空白地帯の解消が第1の優先事項と思われます。
中央館となる新図書館と他の8つの図書館(室)とのオンライン接続が必須です。
巡回配送便の充実、公共交通網の整備もある程度は必要になってくるでしょう。
その上で新図書館は構想されるのでしょう。
広域自治体である登米市は車中心の社会なので、新図書館では広い駐車場が必須となります。
親と一緒に、そうそう頻繁にはやって来れない、遠くからやってくる子どもたちのためのアミューズメント的な設備も必要でしょう。
蔵書数を増やし、カフェの併設、気兼ねなく立ち寄れる居心地の良い場所、利用者も職員も楽しくしていて、相談ができるレファレンスサービスなど、市民の期待を満たす図書館が求められています。
「図書館を利用しない理由」と「行きたいと思う図書館」の中にはありませんでしたが、全体の自由意見の中では、自治体が広域であることから移動図書館やインターネットを使った電子書籍を中心に考えるべきであるという意見と、駅は市街地からは離れているものの、駅の近くで本の取り扱いができると通勤通学で利用する人にとって便利であるという意見があることを付け加えておきたいと思います
(※)対応分析(コレスポンデンス分析)
クロス集計表の分析に、HADを使用しています。
自由意見の分析に、KH Coderを使用しています。