アンケートの自由意見から探る課題
九州山地のただ中にある1000人の村に、毎年14万人の観光客が訪れるという。
村の今後について「村の在り方、今後進めていくべきこと等」に関するアンケート結果が公開されていたので、自由意見から課題を探ってみたいと思います。
西米良村の北60キロメートルに天孫降臨神話の高千穂があります。民話伝承の多い土地でもあります。
「あさよむ」とは、朝読む読書活動のことかと思いきや、そうではなかった。
少し西米良村を紹介しておこう。
西米良村公式サイト (nishimera.lg.jp)
児湯郡西米良村
(こゆぐんにしめらそん)
人口 972人(推計人口 2022年7月1日)
財政力指数 0.14(2020年度)
鉄道 なし
九州山地のただ中に位置し、面積の96%を森林が占める。冬期は気温が低く、降霜や積雪が発生することもある。夏場は朝夕の気温が低い反面、高温多湿である時も多く、降雨量も多い。
年間14万人の観光客
かつて木炭生産日本一を誇っていた頃は、人口は5000人、最盛期には7000人を超えていた。
1963年の一ノ瀬ダム完成による村の一部の水没や1964年の木材自由化の影響によって、人口は次第に減少することとなり今や1000人の村となった。
廃村の危機の中にあって、しかし、村人は他市との合併を望まず、「自分たちの地域は自分たちで守る」と自立の道を選び、幸福度日本一の村づくりをめざしたのです。
現在は、柚子を中心とした農業を主産業とし、二ホンジカ、イノシシの駆除を兼ねたジビエにも取り組みながら、日本の昔の村の風景そのままに民話の里として観光に力を入れ、年間14万人の観光客が訪れる村となったのでした。
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かりこぼうず大橋 木造車道橋として日本最長
「かりこぼうず」とは、米良地方に伝わる精霊のことで、少々のいたずらはするが、悪さはしない。
地元では、山の仕事をするとき、塩や米、焼酎を供えて山仕事の安全を山の神様に祈る習慣があります。
これを怠ると、「かりこぼうず」が夜中に家をガタガタと揺すり驚かせると伝えられています。
民話伝承を観光資源にする村ならではの精霊ですね。
西米良村あさよむ図書館
図書館と言っても村の基幹集落センター2階に小さな図書室があるだけですが、集落が山間の広い範囲に散在していて来室も容易ではないため、希望の本はメールで申し込めば自宅まで宅配車で配達しています。
毎月23日を『あさよむの日』とし読書推進の日としており、その日は移動図書館あさよむ号が村内を巡回します。
西米良村には本屋がありません。
それゆえに図書館の役割は重要であると考えられ、図書の充実が求められます。
今後のますますの発展に期待したいと思います。
西米良村には「語り部の会」があり、多くの民話が語り継がれています。
実は「あさよむ」とは民話の中に出てくる、むかし西米良村にいたというとんちのきく男の名前なのでした。
西米良 語り部の会 (michikusan.com)
話はこれでお終いという時、「と申すかっちん」というのもかわいらしく温かい気持ちに余韻が残ります。
アンケートの自由意見から探る課題
さて、年間14万人の観光客が訪れる村の現在の課題は何だろうか。
公開されている第6次西米良村長期総合計画(R3-12)3(資料編)から、令和2 年8 月に実施した村民アンケートの集計結果「村の在り方、今後進めていくべきこと等」に関する自由意見を見てみたいと思います。
下記は、自由意見について対応分析(コレスポンデンス分析)を行ったものです。
原点から離れているほど特徴が強く、原点に近いほど特徴が無いと言えます。あるいは原点に近いほど全体の共通の課題を表しているとも言えます。方向が同じであれば同じような特徴を持つものと考えられます。
分析結果からは、村民の主な関心事としては次のようなものがあるようです。
・HPでの情報掲示不足、村内の工事などの案内、イベントに関する情報などの発信
・今後の林業に対する取り組み
・組織の責任者は掛け持ちではなく、広く人材を充てることの重要性
・地域の利便性や生活上の不安、山間災害、同じような環境にある山村との連携
・仲間・コミュニケーションができる場の必要性
・行事が多く負担増に伴い、行事の取捨選択の検討の必要性
・人口減対策について
さらに、共起ネットワークを見てみると、より関心のつながりや課題が見えてきます。
西米良村では、全村民を挙げての観光立村に取り組んでいる様子がうかがえます。
一方では、行事の過多による課題も見られるようです。
観光に関する村民の協力意識が必要だが、女性への負担過多、本業への支障も指摘されており、林業への取り組み、定住者対策に力を入れるべきとの意見も見られます。
昼間人口を調べると、西米良村は107(夜間人口を100とした時の昼間人口)を超えていました。
村外から働きに来ている人がいるということは、村内には比較的多くの仕事があるということです。観光地となれば接客スタッフが必要となるでしょう。
移住政策
移住政策として「西米良型ワーキングホリデー制度」があります。
休暇を利用してユズの収穫やカラーピーマンの選別など農家の簡単な手伝いをし、もらった給料で西米良村に滞在するというものです。
ワーキングホリデーの参加者は、定年退職者が多いだろうという予想に反し、20、30歳代の若い女性が多いようです。
実際の移住者は2年で79名を数えたこともあり、UターンよりIターンの村出身者でない人の移住が多かった。
村の移住の魅力度は高いと言えます。
テレワーク環境
村は、インターネット環境の充実を図っていますが、調べたところブログ発信者はあまりいないようでした。
移住者の定住率にも課題があるようです。
移住者への干渉過多、偏見、うわさ、排除性といった昔ながらの村特有の雰囲気を残す地域性が影響しているという指摘が自由意見の中に見られました。
そのことが、村内に仕事はあるけれども、村の住人となるより村外から働きに来るというスタイルが選ばれる理由かもしれません。
村への移住は、西米良村に限らず「村の一員」という意識が、村民と移住者とでどう折り合うかがポイントです。
林業
林業の分野では成功例として岡山県の西粟倉村が良く取り上げられますが、成功は結局のところ、製造、広報・宣伝、販売・流通という経営的視点に則っているかどうかです。
岡山県西粟倉村の成功は、商材の価値を伝え、流通経路を構築するというマネジメント会社、製造・販売会社を呼び込んで連携を作り上げることができたことに尽きると言って良いでしょう。
西米良村は山に囲まれた村ではあるけれども、村民が全力を注ぐ観光に加えて、さらに林業を主産業に育てるということになると、かなり高いハードルを越えることになりそうです。
しかし、かつて木炭生産が盛んだったことを考えると、ハードルを越えて行く可能性も感じるのでした。