満足度に与える各要因の影響度

 満足度に強い影響を与える要因が何かを探ることは、図書館サービスの向上を図る上で欠かすことのできない作業になります。

 今後の取り組みの方針を決めるために必要で重要な作業です。この作業は、Microsoft Excel分析ツールの重回帰分析を用いることで実現できます。
 

重回帰分析

 データタブのデータ分析を開いて、「回帰分析」を選択します。
 

   
 

 「ラベル」と「新規ワークシート」にチェックを入れ、Y範囲とX範囲を設定します「ラベル」と「新規ワークシート」にチェックを入れ、Y範囲とX範囲を設定します。
 

  

  
 Yは目的変数(あるいは従属変数)、Xは説明変数(あるいは独立変数)です。ここでは、所蔵資料の満足度を目的変数とし、今後力を入れて欲しい分野を説明変数にします。
 

    

 
重回帰分析の結果

 重回帰分析の結果は、以下のようになります。
 結果で注目するのは「係数」「t」「P値」の3つです。
 

   

 
重回帰式

 目的変数をY、説明変数をXとして、重回帰分析の結果は次の式で示されます。
 

  
 係数は各要因の効果の大きさを表し、正の値の場合はYを大きくする方向に働き、負の値の場合はYを小さくする方向に働く要因になります。

 anXn(anとXnの積)は各要因のYに与える影響の大きさを示しています。

 各要因の影響力の比較には標準化処理を施しているt値を用います。

 比較要因が体重、身長のように単位が異なると、それぞれの係数の間での単純な比較ができないので、影響力の大きさはt値を用いて確認します。

 以下に、係数とt値の様子をグラフにしてみました(折れ線グラフと棒グラフの両方で示す)。 独立変数に対して、一般に時系列な推移を示す際に用いる折れ線グラフを使う理由は、棒グラフでは分野名が“棒”で隠れてしまい文字が判読できないことに因ります。
 

 

  
 係数とt値の2つのグラフは、ほぼ同じような形状をしていますが、重ねるとスケールの違いが判ります。t値では、Xの選択数が反映されています。
 

   

 
 なお、軸ラベルを枠外に配置した場合は、以下の図のようになります。
 

 
 
分析結果

 この分析では有意水準をp<0.05(5%)としているので、分散分析表の「有意 F」が0.445816であるため、「重回帰式により説明できる目的変数の変動が統計的検定によって確認できた」とは言えません。

 また、P値においてもp<0.05を満たす項目が無く、視聴覚資料の0.07597が近い数字として存在するだけです。

 そうすると、この分析結果からは有意に「言える事は何もない」ということになります。
 

考察

 しかし、この分析結果からわかることは本当に何もないのでしょうか?

 図書館の現場では、99.999のような9が10個も11個も並ぶような精度の高い結論が欲しいわけではなく、また、重回帰分析を使って「満足度の予測モデル」を作ろうとしているわけでもありません。図書館員にとっては分析結果で得られる次の情報が、極めて有益なのです。

(1)係数が正か負かによって、満足度を上げる要因か下げる要因かを判断できる。

(2)t値によって、満足度に与える影響の大きさを比較検討することができる。

(3)p値によって、確からしさの程度を数字で把握することができる。

(1)~(3)を踏まえて、t値のグラフを見てみましょう。

 満足度を上げている分野は、経済・社会、絵本・児童書、地域資料です。

 主に満足度を下げている分野は、視聴覚資料、小説、語学、芸術になります。今後取り組む課題としては、やはり満足度を下げている分野のことでしょう。

 t値の大きさが取り組みの優先度を決める際の参考になります。

 p値を「誤差」と考えると、有意と判断できる項目はありませんが、逆に(1-p値)は確からしさを示していると考えることができます。例えば30%(p値=0.3)の誤差があるということは、逆に言えば70%は確からしさがあるということを言っているという解釈です。

 下表は、p値と(1-p)の表です。図書館の現場では、この手の本は借りる人はほとんどいないだろうとか、この本は予約がいっぱいつくといった予測が普段から語られます。

 分析結果は統計的検定では不適としても、(1-p)の値は、不適どころかむしろ現場の予測をかなり現実的な感覚で反映している数値であるととらえることができます。
 

   

   

 
データ分析活用の効果

 下図はある自治体が公開している図書館利用者アンケート結果から作成したグラフです。

 「まあ満足」と「とても満足」の合算%をプロットしたものです。

 最初の5年は、利用者数や貸出数などの利用統計をもとに選書計画を立てていましたが、利用統計では利用者の潜在ニーズを把握することができないと思い至り、アンケート分析を主として選書計画に反映させる方針に変更したものです。

 古い、汚い、借りたい本がないなど否定的な意見が多かったところを、満足度を下げる要因にフォーカスして選書に反映させることで、徐々に所蔵資料の満足度に改善の効果がみられるようになってきました。
  

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