図書館が地域社会に対してどの程度役に立っているのか数値で示せ、という問いはなかなかに難しい問題でこれまで納得できる明解な算出方法はなかったといって良いでしょう。
しかし、昨今のAI活用の進展から、論理的な因果関係をもとにした確率推論モデルであるベイズ推論が、これまで困難だった図書館の地域社会評価に道を開く有力な算出方法として浮かび上がってきます。
ベイジアンネットワーク
ベイズの定理を使うことを前提にした下図のようなネットワークをベイジアンネットワークと呼びます。図書館の地域社会に対する貢献度を測るために、このネットワークに基づいたアンケートを作成します。
アウトカムとして、「地域の情報拠点になる」「地域に役立つ図書館になる」「利用しやすい図書館になる」を設定し、その結果「暮らしやすいまち」になることを社会的波及効果(インパクト)とします。
アンケートでは、アウトカムとインパクトをそれぞれ10段階で評価します。
アウトプットの各項目は、アウトカムの論理的因果関係構成要因です。
それぞれのアウトカムの評価に影響が大きく重要であると思う項目を選んでもらいます(複数選択可)。
アウトプットに対するインプットには、貸出者数、貸出冊数、イベント実施数、奉仕人口、登録者数など業務統計で得られる各種のデータが紐づいています。
アウトカムの評価
アウトカムを10段階で評価します。評価を上げる要因や下げる要因は、アウトカムを目的変数とし、アウトプットの各項目を説明変数として重回帰分析を行うことで調べることができます。
インパクトの評価とアウトカムの貢献度
インパクトを10段階で評価します。
(1)評価を上げる要因や下げる要因は、インパクトを目的変数とし、3つのアウトカムを説明変数として重回帰分析を行うことで調べることができます。
(2)さらに、3つのアウトカムのインパクトに対する貢献度を、ベイズの定理を使って算出します。
インパクトの評価で「貢献している」とする基準を評価7以上とした場合、各アウトカムで7以上の高評価を行った人がインパクト評価でも7以上とする割合をそれぞれ求めます。
この割合が、「地域の情報拠点になる」「地域に役立つ図書館になる」「利用しやすい図書館になる」という図書館の目標における「暮らしやすいまち」に対するそれぞれの貢献度ということになります。
図書館と地域貢献評価
「暮らしやすいまち」における図書館の貢献評価(ここでは評価7以上とした)に対する各アウトカムの貢献度が把握できると、今後の図書館サービス向上の取り組みへの方針が立てやすくなります。
また、アウトカム評価はベイジアンネットワークでアウトプットひいてはインプットまで遡って原因を探ることができるため、図書館の取り組みの一つ一つが地域の暮らしにどのように影響を与えているかを見通すことができるようになります。
かつて、図書館をはじめとした複数の教育施設を含むアンケートに対してベイズ推論の手法を使ったところ、図書館に対する有益な評価情報を得ることができた。ベイジアンネットワークを使った推論モデルは、図書館の地域社会貢献度の算出方法として有力であるといえるでしょう。