図書館が、地域を支える情報拠点として地域の課題解決や観光・地域振興、まちづくりに役立つ施設であり、持続可能で豊かな地域社会の創造に貢献することを目指すとなると、図書館は利用者を主な対象にした目線から、非来館者を含む地域住民全体を見渡す視点へと必然的に変化することになります。
アンケートも「図書館利用者アンケート」ではなく「図書館アンケート」として、非来館者を包含した質問設計が必要になってきます。
非来館者を含む質問設計
これまで図書館で実施してきたアンケートは、来館した利用者に記入してもらう方法がほとんどであり、非来館者を対象にしたアンケートの実施は非常に困難でした。
しかし、近年Webアンケートの普及によりそれが実現可能になってきました。
と同時にアンケートの質問も「図書館を利用したことがない人にお聞きします」といった利用者・非利用者を区別した質問ではなく、地域住民を対象にしていることを説明したうえで、利用の有無に区別のないアンケートになるように工夫します。
利用頻度・要望・図書館利用阻害要因
図書館を利用していない人を想定して、以下のような質問を用意しておきます。
(1)「毎日」「週1回」などの利用頻度の質問に「めったに・全く行かない」(※)といった選択肢を追加します。
(2)充実して欲しい本の分野や充実して欲しいサービスなどの要望を聞く質問を設けると、利用者・非利用者に関わらずアンケートで意思表示ができます。
(3)自由回答に「○○図書館の利用を阻害する要因は何だと思いますか。」を追加して○○図書館を利用しない理由を探ります。これも利用者・非利用者に関わらず意見を述べることができるものです。自由回答は、テキストマイニングを行うといいでしょう。単語の出現頻度や共起回数の情報は利用阻害要因を抽出するのに役立ちます。
当然ながら、図書館を利用したことがない人には答えられない質問はありますが、2種類のアンケートを用意する必要はなく、「図書館利用者向け」ではなく「一般住民向け」の図書館アンケートにすることが肝要です。
利用頻度の質問でどれを選択したかによって利用者・非利用者別に分析はできます。なお、アンケートの対象となる図書館は特定しておきます。
複数選択可での注意点
アンケートの質問で注意すべきことの一つとして、複数選択可の質問では選択数を制限しないようにします。
よく選択は3つまでといった質問を見かけますが、これはニーズを探る上ではニーズの切り捨てになっており正確な把握ができなくなります。
普段表に出ないものが潜在的なニーズであり、そのニーズを切り捨ててしまうのでは質問の意味を成しません。
選択者が多い項目に意味があると思い勝ちですが、そういう結果には役に立たない場合も多々あるのです。例えば、建物が老朽化しているので建て替えて欲しいという要望が一番多かったとしても、すぐの実現は難しいです。
アンケートはデータ分析を行うことを前提にします。
データ分析の手法を知れば、アンケートで得られるすべてのデータを対象に分析が可能で、有益な結果を得ることができることがわかります。
満足度の評価と要望のデータとで両者の相関関係を分析することで、選択者数の多少に関わらずお互いの影響の度合いを知ることができます。
その結果、選択者数が少なくても評価に影響が大きく対応が容易なものであれば、すぐにでも対策をとることができてサービス向上につなげることができるのです。
(※)参考 長谷川 幸代 公共図書館における潜在利用者のセグメント化の試み ーー非利用理由の自由回答に対する分析をもとにーー 跡見学園女子大学文学部紀要社会学・社会情報学 第28号 2018 年 3 月 P59-74