コロナ禍とは言え、それ以前も含めてこの何年か図書館の貸出者数は伸びているのに貸出数が伸びない、あるいは予約は増えているのにそれに見合った貸出数になっていない、なぜ?と考えたことはないだろうか。
図書館利用者の推移
ある自治体のホームページの情報から、貸出者数、貸出数、一人当たり貸出数を調べてみると、郊外にあるA図書館、ビジネス街にあるB図書館の利用状況は以下のとおりでした。
平成25年の値を1としてグラフにしています。この自治体では平成25年から図書館の利用規則が変更になっているため、条件を合わせるために平成25年以降のデータをみています。
A図書館は貸出者数の伸びに対して貸出数が伸びずにほぼ横ばいの状態になっています。B図書館では貸出者数と貸出数とはほぼ同期しているように見えます。
ここで一人当たり貸出数を見ると、利用者の1回当たりに借りる点数がどちらも次第に少なくなってきていることが分かります。貸出者数の伸びに対して思ったような貸出数の伸びにならないのは、一人1回当たりの貸出点数が減少しているから、ということのようです。
令和2年の大きな落ち込みは、コロナ禍による休館や入館制限・貸出制限等による影響です。この年は、一人当たり貸出数が持ち直している様子も見て取れます。
貸出の状況
1回当たりに借りる点数が少なくなってきている理由は何だろうか。カウンターでの貸出の様子をみると、過去には見られなかった利用者の行動が目に留まります。
1)スマートフォンの画面を見せながら職員に在庫の確認をする・予約を依頼する。
2)予約した本を受け取ってすぐに退館する。
3)予約した本の中から数冊を借りて、残りは予約取り消しにする。
1)は、スマートフォンの普及に伴って普通に見られる光景になりました。2)もスマートフォンを使っていつでもどこでも検索・予約ができるようになったことで、館内で本選びをしたりOPACや予約票を使って予約したりするということが徐々に少なくなってきています。
3)は目ぼしい本を予約しておき、カウンターで本の内容を確認して必要な本のみを借りるという行動です。従って不要な本の予約取り消しも増えているのです。
令和2年のコロナ禍では、入館制限や滞在時間制限などにより、じっくりと本選びができないためか予め多くの本を予約しておいてカウンターで選ぶということが顕著に増えました。普段より少しでも多く借りておこうという意識が働くのか、グラフでは一人当たり貸出数が若干回復しています。
予約数の推移
ではその予約数はどう変化しているのでしょうか。推移をグラフに追加してみます。
予約がし易くなって予約数は令和2年を除いて順調に伸びています。予約が増えているのに貸出数が増えないのはおかしいと指摘される図書館もあったと思います。
しかし、実は予約取り消し数も多いので、予約数がそのまま貸出数に加算されるわけではないのです。貸出数の推移では、予約のキャンセル数も重要な確認事項になります。
情報通信機器の世帯保有状況
総務省の「令和3年版 情報通信白書|情報通信機器の保有状況 ア 主な情報通信機器の保有状況(世帯)」では、情報通信機器の世帯保有率の推移は次のようです。
スマートフォン(グラフの緑線)は、2010年にはじめて統計に表われて以来急激な普及を示してきました。2016年に僅かに前年を下回った時は、普及もここまでかと話題になりましたが、その後はそれどころかますます普及の勢いは増していたようです。
A図書館、B図書館のグラフにスマートフォンの普及の様子を重ねると下図のようになります。スマートフォンの世帯普及状況と予約数の推移は軌を一にしている様子がわかります。
スマートフォンによる検索・予約のし易さが図書館の利用行動に変化をもたらし、それは一人当たり貸出数にも影響を与えていると言えそうです。
これからの図書館
情報資源は図書館所蔵資料だけでなくインターネット上の情報を含め多様であり、読書の概念もまた多様化しています。情報通信機器の発達によって図書館利用の行動は変化し始め、社会が少子化構造へと進行している中で、図書館の役割や職員の取り組みが資料の貸出の数値で評価される時代は終わろうとしています。
持続可能な地域社会を目指すこれからの図書館では、図書館の“利用者”を母数にするのではなく、“地域住民”を母数にした以下のような評価指標が主流になってくると考えられます。
・地域住民の図書館利用者登録率
・年に1回でも図書館を利用した地域住民の実利用者の割合(実利用者率)
・地域住民一人当たりの貸出数(貸出密度)
・地域住民による図書館の役立ち度評価
図書館そのものの満足度だけではなく、図書館の地域への役立ち度を評価
図書館は地域の文化の充実度につながっているか、住みやすさにつながっているか、幸福な生き方に役だっているかなどがこれからの図書館の評価指標になってくるでしょう。
情報通信機器の普及により、Webアンケートを利用することで、来館者だけでなく広く非来館者を含めた地域住民からの評価を聞くことが可能になってきました。